研究概要 |
腫瘍免疫の研究分野において、樹状細胞(dendritic cell : DC)などの抗原提示細胞を利用した、腫瘍特異的傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte : CTL)誘導の研究が進められている。CTLを効率良く誘導するためには、抗原提示細胞に効率良く抗原を提示させる必要がある。そのためには、DCなどの抗原提示細胞による腫瘍細胞や腫瘍抗原の貧食効率を向上させる必要がある。 抗体と結合した腫瘍抗原をFcレセプターを介してDCが貧食すると、腫瘍抗原由来のペプチドを非常に効率良くDCが提示することが知られている。そこで当研究室で開発した細胞膜修飾剤(Biocompatible anchor for membrane ; BAM)を用いて、腫瘍細胞表面に抗体を結合させることにより、DCなど抗原提示細胞による腫瘍細胞の貧食能の促進を試みた。本研究のアプローチの有利な点は、BAMを利用することによって任意の抗体を腫瘍細胞に結合できるため、腫瘍特異抗体の調整を必要としないことである。 まず抗原(本研究ではフルオレセイン,FL)-BAMコンジュゲートを調整し、これを腫瘍細胞の細胞膜に導入してFLを細胞膜上に提示した。次いでマウス抗FL抗体を腫瘍細胞の細胞膜上のFLに結合させ、抗体のFc部分を腫瘍細胞の外側に向かって配向させた。このようにして抗体を結合させた腫瘍細胞(マウスリンパ腫EL4)と抗原提示細胞の一種であるマウスマクロファージ(Mφ)細胞株(WEHl3)を共培養し、マクロファージの腫瘍細胞に対する貧食能を観察した。その結果、マクロファージは、抗体を結合させていない腫瘍細胞と比較して抗FL抗体を結合させた腫瘍細胞を約1.0倍高い効率で貧食することが明らかとなった。結論としてBAMにより腫瘍細胞表面に任意の抗原を結合させ、その抗原に結合させた抗体を介して、Fcレセプターを発現する抗原提示細胞の腫瘍細胞貧食能を高めることに成功した。 今後、血液中から分離したDCを用いて同様な検討を行い、DCの貪食能やT細胞活性化能について評価する予定である。
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