腸管出血性大腸菌(EHEC)による細菌感染症は、1996年以降、国内で継続的に発生している。感染者から検出されるEHECの血清型はO157:H7が最も多く、発生源や感染経路の特定には迅速な病原菌の検出が必須である。しかし、公定法に基づく大腸菌O157:H7の検出には、幾つかの培養操作を必要とすることから2〜3日程度の時間を要する。 家畜糞便からスクリーニングした大腸菌O157:H7に特異的に感染するファージPP01の頭殻表層に、蛍光タンパクを発現するファージを分子構築した。このファージを大腸菌O157:H7に感染させ、紫外線を照射すると、緑色蛍光を発するため、ファージの吸着段階で大腸菌O157:H7を検出することができた。 特異的感染のメカニズムは細菌表層に提示されるレセプターとファージテールファイバーの先端にあるレセプター認識リガンドの結合特異性に起因するもので、PP01ファージの場合、リガンドタンパクは3%の僅かなアミノ酸配列差を識別した。 また本技術の応用として、上下水道などにおける糞便性大腸菌K12に特異的に感染するT4ファージに同様な処理をほどこすことにより、同様なメカニズムによりK12を検出することができ、これにより上下水道などの水質安全性の連続監視が可能になると考えられる。 本技術の新規性は特定の細菌に特異的に感染するファージを見つけ、それに緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子を組み込んだ、蛍光性ファージを分子構築したところにある。 本年度は、比蛍光強度の高かったPP01を用いてO157:H7の検出実験を行った。混合菌体に対する感染多重度1000、25、10分間の接触後、リン酸緩衝液で洗浄し、蛍光顕微鏡で確認した。混合比を変え蛍光顕微鏡で観察されるO157の割合と計算値を比較すると良い相関が得られた。同様な実験をT4ファージとK12の組み合わせについて行い、ほぼ同等の結果を得た。
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