研究概要 |
水深1,000〜2,500mに棲息する深海魚コンゴウアナゴを「しんかい2000」により活きた状態で捕獲回収後、大気圧下で組織培養する事に成功した。この深海魚由来細胞は凍結保存にも成功し、世界に先駆けてようやっと深海多細胞生物の分子細胞生物学的な研究を本格的に進められる段階に達した。 地表で棲息する各種動物細胞株は、5から10MPa(水深500〜1,000m程度)の圧力で増殖を停止させ、30MPaを超える加圧条件下では細胞骨格の脱重合をともなう形態の球形化が生じる。本研究課題では、1)深海魚由来細胞株と地表動物由来細胞を、高圧下で長期間培養しながら観察実験できる顕微鏡観察装置を開発し、2)深海魚由来細胞株がなぜ高圧極限環境下でも増殖できるのかを、細胞骨格を中心とした研究を通じて解明する事を目的とした。 本年度は下記の3項目について加圧実験を試み、深海魚コンゴウアナゴ由来細胞、マアナゴ由来細胞およびマウス3T3-L1細胞の耐圧特性について比較した。 1)加圧による各種細胞株の生死判別 2)加圧による細胞内アクチン・チューブリンの骨格の脱重合 3)各種細胞株の加圧培養時における増殖速度 その結果、37℃のマウス細胞は100MPa(1気圧=0.1MPa)、25℃のマアナゴ細胞は130MPa、15℃のマアナゴ細胞は100MPaで、すべての細胞が死滅する事を確認した。一方、15℃のコンゴウアナゴ細胞は150MPaの圧力条件までは死細胞が全く検出されず、200MPaの加圧条件において、全ての細胞の形状が崩壊する形で死滅する事を確認した。 各種加圧実験を通じて各種細胞株の耐圧特性を比較した結果、コンゴウアナゴ細胞は、マウス細胞およびマアナゴ細胞と比べて高い圧力耐性を有する事を明らかとした。
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