近年、癌の粒子線・放射線治療の基礎研究として、細胞組織の特定領域や単一細胞にX線やイオンビームを照射し、その生物学的影響について調べられている。これまでに、研究代表者は、培養液中の細胞にX線マイクロビームを正確に照射する装置を開発した。X線マイクロビーム照射装置はマイクロフォーカスX線管(管電圧:〜50kV、管電流:〜1mA、Rhターゲット)、X線導管(ガラスキャピラリ)、蛍光X線分析用X線検出器、サンプルステージ、光学顕微鏡、レーザー等から構成されている。X線管、X線導管、X線検出器は真空チェンバー内に設置されている。マイクロフォーカスX線管からのX線はガラスキャピラリを利用して、真空窓から大気中に取り出され、最小10μmのX線ビームスポットを得ることができる。 培養液中の単一細胞にX線マイクロビームを照射した場合、その吸収線量は非常に重要なパラメータとなる。本研究では、X線マイクロビームのビームプロファイルおよびエネルギースペクトルを正確に測定し、モンテカルロ法による光子・電子輸送計算シミュレーションから、培養液中の単一細胞に対する吸収線量率を評価した。5mm深さの培養液に沈んだ10μmサイズの細胞にX線マイクロビームを照射した場合、エネルギー4keV以下のX線は、培養液中で完全に吸収され、細胞照射に寄与するX線のエネルギーは4〜10keVが中心であった。また、光電効果やコンプトン効果で生成される高速電子のエネルギー付与は、ビーム径に対して1〜2μm程度の拡がりがあることがわかった。また、その細胞に対する最大の吸収線量率は0.05Gy/sと評価されており、低放射線線量領域での生物照射実験に利用可能であることが示された。
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