電気化学的には比較的簡単な水の水素と酸素への分解を、光エネルギーを用いて行うのは大変難しい。これは太陽光による水の分解を行うためには分子レベルの局所部位に多光子エネルギーを用いて4電子酸化還元反応を実現することが条件となるからである。しかしながら太陽光は希薄である上にそのエネルギーは紫外光から赤外光まで非常に幅広く分布しており、この中で、紫外・可視光が約50%、残り50%が赤外光となる。すなわち光子エネルギーを効率よく利用するためには近赤外光領域の光をもターゲットとする必要がある。申請者が既に合成に成功していた水溶性で高度に共役系の発達した高分子である狭バンドギャップポリマーはこの太陽光の幅広いエネルギー全域を吸収可能である。そこでこの希薄な太陽光から多光子を捕集し多電子酸化還元反応へつなげるために、電子プールサイトになり、しかも架橋点となりうる部分の分子設計を行う必要があった。そこで、このようなサイトとしてフェナントロリン金属錯体の水溶性狭バンドギャップポリマーへの導入を試みたところ、コバルトイオン錯体の形成が電子スピン共鳴法等で確認された。現時点では光子捕集による酸化還元反応の検出にはいたっていないが、さらに金属種を変え検討していく。また、色素増感太陽電池をモデルとして、その色素部位に狭バンドギャップポリマーを用いることで、狭バンドギャップポリマーから二酸化チタンへの電子移動反応とそれに付随する発電について検討したところ、発電効率は悪いものの、1200nmより短波長の光エネルギーを用いて、発電可能であることが確認できた。
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