本研究は五感と色素細胞機能の連携を探索することを目的としている。視聴覚については、毛色変異体がこれらに異常を示すことがわかっているので、本年度は、視聴覚に加え、特に嗅覚と当該細胞機能に関連があるか否かを毛色変異体を用いて解析しようと実験を開始した。 小眼球症遺伝子座の変異体は、多くのアリルが白斑を示し、全身白毛色となる個体は聴覚を失う。この遺伝子座の変異で、我々が維持するblack-eyed whiteと呼ばれるアリルは、全身白毛色で遺伝的な難聴を示すが、このマウスを用いてたまたま網膜色素変性症の原因遺伝子の一つの活性を解析していたところ、当該遺伝子の活性変動が、正常なマウスと著しく異なることを見いだした。その原因を考察する過程で、これまでこのマウスの遺伝的背景として掛け合わせを続けてきたC3Hマウスが、元々視細胞に変性症を起こす変異rd(retinal degeneration)を持っていることに気づいた。 小眼球症遺伝子座は、我々が持つ二つの色素細胞系譜を保証する唯一の遺伝子であり、ことの重要性に鑑みて、上記の遺伝子座を分離する実験から始めなければならなくなった。どちらの変異も劣性であるので、時間を要し、ようやく本格的な解析を始められるほどの個体数となった。思わぬ展開となり、本来の解析が大幅に遅れたが、この過程で色素細胞の思わぬ性質を発見した。それは、聴覚と同様、網膜色素上皮による視細胞外節のファゴサイトーシスには、どうもメラニン産生は必須でないらしいことである。 生理的機能解析の際に、遺伝的背景の考慮が必須であることを再認識した一年であったが、新たな色素細胞機能発現機序を発見したことは大きな収穫であった。次年度の内約が得られたら、これらを用いて当初の予定通り解析を進めたい。
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