研究概要 |
子嚢菌類、アカパンカビを用いて、その光応答性,温度感受性(高温耐性)、活性酸素(過酸化水素、および活性酸素発生剤、パラコート)耐性(酸化ストレス耐性)について,光信号伝達体として確立されたヌクレオシドニリン酸キナーゼ(NDK-1)の機能とのかかわりで調査した。その光応答は,1)菌糸のカロテノイドの光誘導,2)有性生殖の入口である原子嚢殻形成の光誘導,3)分生子形成の概日性リズムの光による位相変位,4)子嚢殻の極性の光誘導(子嚢胞子の放出口が子嚢殻の上方にできる)。アカパンカビでは光受容体はWC-1/WC-2複合体が知られ,それを負に制御する因子,VVDが存在する。光受容体WC-1/WC-2複合体は光照射により,電子供与性ラジカルを生じ,それを溶存酸素に与え,活性酸素,O_2^-を生じると私供は考える。O_2はスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)により,H_2O_2(過酸化水素)を生じる。アカパンカビはサイトゾルにCu/Zn SODが存在し,ミトコンドリアにMnSODが存在する。H_2O_2はカタラーゼにより,H_2OとO_2となる。カタラーゼはCat1,Cat2,Cat3が存在する。アカパンカビの菌糸を光照射するとオレンジ色のカロテノイドを生成する。Cu/Zn SOD変異株,sod-1は活性酸素分子種の細胞内分布が野生株とは異なると考えられる。sod-1は光照射により,カロテノイドの生成速度が野生株の2倍に上昇した。菌糸の培地にアンチオキシダント(活性酸素消去剤)を加えると,カロテノイドの生成速度は抑制された。sod-1は同時に子嚢殻極性の光誘導が欠失していた。このようにして,光伝達に活性酸素分子種が必要とされることを確定した(吉田,蓮沼,2004;日本経済新聞,2003年12月22日)。
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