本研究はグッピーの視物質変異と行動、特に性選択との関連を研究するための分子レベルでの必要不可欠で強固な土台を構築するため、その視物質遺伝子レパートリー、吸収光波長、発現様式を明らかにすることを目的とする。沖縄県我部祖河由来と静岡県下田由来のグッピーからゲノムDMを抽出し、赤型視物質遺伝子のゲノム構成を調べた。その結果グッピーは5座位もの赤型視物質遺伝子を有し、しかもそのうち2座位にはそれぞれ5種類及び3種類の制限酵素切断長多型(RFLP)が存在することを明らかにした。このような高度の多型性は他の動物で例のないことである。それらすべての赤型視物質遺伝子座位のすべての対立遺伝子を単離するために、グッピーのラムダファージゲノムライブラリーを作成し、大部分の遺伝子に対応する遺伝子クローンを得た。それらの塩基配列はしかしながら高度に保存的であり、吸収波長の相違を配列から推測することはできなかった。現在それぞれの遺伝子に対応するcDNAを眼球から単離中であり、それらから視物質を再構成して吸収波長を実測する予定である。赤型視物質遺伝子が高度の多重座位性とRFPL変異性を示すのに対し、緑型、青型、紫外線型視物質遺伝子は変異性が低く、高い変異性は赤型視物質に特有の現象であった。これらの変異性が沖縄集団と下田集団の双方に見られることから変異性の由来はグッピーの人工的な日本への移入以前にあるはずであり、かつペット化と再野生化の過程でも変異性が大きくは損なわれていないことを示唆している。
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