植物の花芽誘導・形成過程の分子的メカニズムを明らかにするため、一回の臨界暗期により花芽形成が誘導される短日植物のアサガオ(Pharbitis nil)を材料に、臨界暗期を与えた子葉から花芽誘導に関わる遺伝子、および茎頂分裂組織から花芽形成過程に関わる遺伝子の単離を試みた。SSH法を用いて、子葉からは2種類の遺伝子断片が、また茎頂分裂組織からは約40種類の遺伝子断片が得られた。子葉由来の遺伝子の一つ、PNJ1はheat shock proteinの一種であるDnaJタンパク質と高い相同性を持つポリペプチドをコードしており、葉緑体に局在することが予想された。この遺伝子の発現は暗所で強く促進される一方、白色光下では強く抑制された。PNJ1 mRNAの半減期は4.3分程度で、植物の転写産物の中では極めて短命であることが明らかになった。また、PNJ1 mRNAの発現抑制に対する青色光と赤色光の効果が大きく異なることがわかった。この遺伝子産物の生理的役割を明らかにする目的で、35SプロモーターにPNJ1遺伝子をつなげたコンストラクトをタバコ、およびアラビドプシスに導入し、現在育苗中である。また、PNJ1の特殊な発現調節を調べるため、PNJ1遺伝子のプロモーター領域をGUS遺伝子につないだコンストラクトも作製し、現在導入を試みている。一方、茎頂分裂組織由来の遺伝子の一つ、PnADHはshort-chain alcohol dehydrogenaseと相同性の高いポリペプチドをコードしていた。花芽形成過程の代謝調節はこれまでほとんど研究されてこなかったので、この遺伝子を詳細に調べた。In situハイブリダイゼーションから、この遺伝子は花芽形成初期のドーム中央表皮、およびがく背軸側表皮に比較的強く発現していることが示された。
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