昆虫視葉概日時計ニューロンは光周情報記憶素子か

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15657020
• 研究機関: 岡山大学
• 研究代表者: 富岡 憲治 岡山大学, 理学部, 教授 (30136163)
• キーワード: コオロギ / 光周性 / 概日時計 / 光周情報 / 波形変調 / 視葉 / 細胞培養 / 概日リズム

研究概要

概日リズムの生理機構が最もよく解明されているフタホシコオロギ(Gryllus bimaculatus)と、幼虫発育速度が光周期で制御されることが知られているタンボコオロギ(Modicogryllus siamensis)およびエンマコオロギ(Teleogryllus emma)を実験動物として用い、今年度は、光周期による概日活動リズムの波形変調、光周期による視葉電気活動リズムの変調の検討および、単一視葉時計ニューロンの細胞培養を試み、以下の成果を得た。
1)光周期による概日活動リズムの波形変調:長日(LD16:8)と短日(LD12:12)で発育させたエンマコオロギ成虫の活動リズムを恒暗条件下で計測し、概日波形の光周条件に依存性を検討した。明暗下では夜行性であるが、活動期はほぼ暗期の長さに対応して変化し、その波形は恒暗下でも維持されることが明らかとなり、光周条件によって概日時計機構が大きく変化することが示された。
2)光周期による視葉電気活動リズムの変調:コオロギの概日時計は視葉にある。そこで、長日(LD20:4)と短日(LD12:12)で発育させたフタホシコオロギの視葉時計を体外培養し、恒暗下での視葉遠心性ニューロン群の電気活動リズムを解析したところ、視葉概日リズムの主観的夜の長さが、暗期の長さに依存して暗期が長いほど長いことがわかった。従って、行動リズムの変調は時計そのものの変調に起因することが示唆された。
3)単一視葉時計ニューロンの培養:コオロギ視葉概日時計組織から、細胞を単離し、電極をプリントした培養シャーレ上で少なくとも3週間にわたって培養することに成功した。今後は、培養下の細胞から電気活動を導出することを試みる計画である。

研究成果

• [文献書誌] Taniguchi, Norichika: "Duration of development and number of nymphal instars are differentially regulated by photoperiods in the cricket Modicogryllus siamensis(Orthoptera : Gryllidae)"European Journal of Entomology. 100. 275-281 (2003)
• [文献書誌] Saifullah, A.S.M.: "5-HT_7-like receptors mediate serotonergic modulation of photo-responsiveness of the medulla bilateral neurons in the cricket, Gryllus bimaculatus"Zoological Science. 20. 303-309 (2003)
• [文献書誌] Saifullah, A.S.M.: "Pigment-dispersing factor sets the night state of the medulla bilateral neurons in the optic lobe of the cricket, Gryllus bimaculatus"Journal of Insect Physiology. 49. 231-239 (2003)
• [文献書誌] Singaravel, Muniyandi: "Phase shifts of the circadian locomotor rhythm induced by pigment-dispersing factor in the cricket Gryllus bimaculatus"Zoological Science. 20. 1347-1354 (2003)
• [文献書誌] 富岡, 憲治: "複数振動体系による昆虫概日リズムの構築"比較生理生化学. 20. 140-146 (2003)
• [文献書誌] Tomioka, Kenji: "Multioscillator systems controlling the circadian locomotor rhythm in insects. In K.Honma and S.Honma (eds) Circadian Clock as Multi-oscillation system"Hokkaido University Press. 61-74 (2003)
• [文献書誌] 富岡, 憲治: "時間生物学の基礎"裳華房. 223 (2003)