ミトコンドリアにおけるD-Asp含有蛋白質の動態を調査するため、D-Asp含有ペプチドを抗原として特異的な抗体(以下、抗D-Asp抗体)を作成し、二次元電気泳動とウエスタンブロッティングにより、その網羅的検出を試みた。まず、通常培養のHep G2(ヒト肝癌由来株細胞)からミトコンドリアを分離し、そのホモジェネートに対して検出を行った。その結果、予想外に陽性スポットが多く検出された(〜40個)。当初、酸化ストレスを与えない限り、蛋白質中のAsp残基のラセミ化は起きにくいと考えていたので、この結果は、作成した抗D-Asp抗体の特異性に疑問をもたせるものであった。従って、別途精製したD-Asp含有蛋白質分解酵素:D-aspartyl endopeptidase(DAEP)をその抽出液に加え、スポットの減少を観察した。なぜなら、DAEPはD-Asp含有蛋白質を特異的に分解するので、DAEPを加えたミトコンドリア抽出液では、D-Asp含有蛋白質が分解され、抗D-Asp抗体では検出できなくなるはずだからである。その結果、およそ半分のスポットが減少した。従って、得られた抗D-Asp抗体陽性スポットの全てがD-Asp含有蛋白質ではないことが判明した。しかしながら、多くの陽性スポットが、DAEPの添加によって消失する、即ち、D-Asp含有蛋白質であることが示唆されたことも確かである。D-Asp含有蛋白質の網羅的な検索方法は、効率や感度の点から本法をおいて他に無い。従って、上述のように抗D-Asp抗体とDAEPと組み合わせて検出すれば、判断を誤ることなくD-Asp含有蛋白質の同定も可能であろう。今後は本法の検出精度をより高め、ストレスの有無によるD-Asp含有蛋白質の生成量の変化について調査したいと考えている。
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