研究概要 |
本研究は,タンパク質の二次構造やモジュールなどの単位領域(パーツ)でポリペプチド鎖を入れ替えたタンパク質の結晶構造を研究している。バルナーゼについて,二次構造(Sシリーズ)とモジュール(Mシリーズ)の観点からそれぞれ6つのパーツにわけ,すべての組み合わせに対するパーツ並べ替えタンパク質46種類を作成した。その中から比較的立体構造や活性を持っているS2543とS2354H102A(S2354は構造が取れなくH102A変異体にして構造をとったもの)について,大腸菌系における大量培養・精製,結晶化,構造解析を行った。S2543についてはANSを用いた蛍光実験からモルテングロビュール状態と考えられていたが,1.5Åを超える高分解能の結晶が得られた。さらに最近の実験で1.1Å超高分解能でのデータ収集に成功した。しかし,全長110アミノ酸残基に対し約10残基の電子密度の観測不可能な部分があり,これに対して揺らぎによるものか否かを決定付けるために,基質アナログである2'3'GMPの結晶化も行い,他の結晶系を持つ結晶作成にも成功し,現在重原子同型置換法により構造解析を進めている。S2354H102A変異体については,プラスミドの大腸菌への形質転換から見直し,結晶化までを行った。S2354の場合はS2543よりさらに不安定で結晶化への濃縮方法に困難を極め,基質アナログを透析の段階から共存させることにより,高濃度(20mg/ml)への濃縮に成功し,微結晶析出までこぎつけている。いずれにせよ,これだけ大胆に1次配列を変えたにもかかわらず超高分解能での詳細構造が得られたことは,現在の構造ゲノム科学を支えるアンフィンセンのドグマに反する事例を詳細に解き明かしたことであり,進化分子工学やタンパク質構造構築原理などのバイオインフォマティクスに多大な貢献が期待できる結果である。
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