研究概要 |
15年度には既に、一方の頭部は野生型、他方の頭部はATP結合部位に変異を持つヘテロダイマー(Wt/R14A)を作成し、その1分子ナノ計測を行うことにより、Wt/R14Aは、速い8nmのステップと遅い8nmのステップを交互に繰り返している事を見いだした。この結果は、従来型キネシン分子モーターの二足歩行運動モデルを直接証明するものである(Kaseda et al.,2003)。この研究の過程で、単純な二足歩行モデルではヘテロダイマーキネシンの速いステップは、野生型のステップと同等であることが予想されるが、実際は野生型よりも高い運動活性を示すという、興味深い現象が新たに見つかった。16年度は、酵素反応速度論的手法を用いてこの謎の解明に取り組み、キネシンの2つの頭部間の情報伝達機構について、新たな知見を得た。具体的には、 1.ATPに対する親和性の解析 ATPase活性測定と多分子が引き起こす微小管滑り運動速度の解析から、変異体頭部(R14)は、ATPに対する親和性が極めて低いことを見いだした。 2.ATP結合速度の解析 蛍光標識ATPを用いたストップトフローによる解析によって、変異体頭部に対するATPの結合速度がこれまでに知られている野生型と比べて極めて遅いことが判明した。 単純な二足歩行モデルでは、微小管に結合した頭部がATPを結合し構造変化するのを待って、他方の頭部が微小管上の次のサイトに結合し、その後でATPを結合する。しかし、我々の結果は、一方の頭部のATP結合速度が非常に遅い場合、他方の頭部はこれを待たずに次の状態に入ることができるということを示唆する。
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