本年度は我々が本グラントを利用して発見したGAS7に関する研究を発展させた。Gas7は繊維状のアクチンに結合することが知られているタンパク質であり、Pin1のリン酸化タンパク質結合部位と結合するWWモチーフを有するタンパク質として我々がデータベースからかずさDNA研究所と共同で再発見したのである。我々はGas7がリン酸化タウに結合することを明らかにしたが、現在、Gas7がタウを介して微小管重合にどのように関わっているかについて明らかにすべく研究している。すなわち微小管の重合か脱重合に関係しているのかどうかということである。現在までに、個体レベルでのGas7の機能について明らかになったことは、Gas7の発現がアルツハイマー病の患者脳でコントロールの脳よりも低いということである。Gas7の機能についてはまだわかっていないが、Tauのリン酸化と密接に関与してそれを制御しているのではないかという仮説を持っている。今後、Gas7遺伝子欠損マウスを作成し、また過剰発現トランスジェニックマウスを作成して、Gas7の個体や細胞での機能を明らかにしたい。また、Pin1に関しては今年度も大きな成果を成果報告につけることができたことは大変誇らしく思う。今年度はPin1がc-mycのユビキチン分解に関与しているという発見を報告した(Nature Cell Biology)。Mycは癌遺伝子であり、分解がスムーズに行われないと、細胞は不死化して増殖をやめなくなる。Pin1が癌や神経変性疾患に関わっていることからも、リン酸化タンパク質を制御している因子が生物学的に重要な働きをしており、重大な疾患特に老化疾患に強く関係していることが明らかとなった。
|