本研究はイトマキヒトデの精子中心体分画から精製されたDNAの塩基配列をもとに、このDNAの機能と構造を探ることを目標として研究を進めている。昨年度までにイトマキヒトデの精子中心体分画より精製された新奇DNAが受精卵の分裂装置及び、減数分裂期の分裂装置の中心小体と胞胚期の繊毛基部にそれぞれ局在するユニークなDNAであることを報告した。今年度は、イトマキヒトデの精子鞭毛基部の中心体に局在する新奇DNAが他の動物の繊毛基部体にも局在するか否かについて検討した。多くの真核生物が有する繊毛基部体及び、鞭毛基部体、中心体(中心小体)は、構造的にまた機能的に互換性のある細胞内小器官である。純系の培養が可能なゾウリムシを材料に選び、このユニークなDNAが繊毛基部にも局在するか否かについて調べた。 イトマキヒトデの精子中心体に局在するDNA配列をもとに設計したCSプライマーを用いて、ゾウリムシのトータルDNAからPCRにより増幅された産物について検討した。その結果増幅されたPCR産物は、イトマキヒトデと同様に、増幅されるサイズは約500bpであった。このDNAの細胞内局在を探るために、蛍光プライマーを用いたin situ PCRを行ったところ、このDNAは繊毛の基部にのみ存在していることが明らかとなった。更にゾウリムシを材料に増幅されたDNAの塩基配列を決定したところ、CSプライマーにより増幅される約500bpにおいてイトマキヒトデのDNAの塩基配列と高い相同性(95.4%)があることが確認された。これらの結果はこのユニークな新奇DNAが、イトマキヒトデの中心体に局在しているだけではなく、ゾウリムシの繊毛基部の基底小体にも同様に局在していることを示すものである。またこれとは別に、イトマキヒトデ精子を材料に、免疫学的手法を用いて新奇DNAの局在部位を電子顕微鏡レベルで解析する試みに着手した。
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