種子島で絶滅したニホンザルのミトコンドリア遺伝子タイプを判定するために分析方法を検討した。従来のミニドリルによる骨標本の粉砕法は骨粉の飛散によるコンタミネーションの危険が大きいため、チューブに入れた閉鎖状態で骨を粉砕してDNAを抽出する方法を試みた。ジルコニア・ビーズによるチューブ内破砕法を採用して分析を継続しているが、結果を得るに至っていない。 今年度は東北地方の古分布を調査するため、新たに北上山地南部地域(前沢周辺地域)で集中的に厩猿の標本を採集し、分析を続けている。 さらに、ミトコンドリア遺伝子におけるニホンザルの東西分化のパターンを比較するために、新たに宮崎県と山口県で原生個体群から試料を集め、変異の分布特性について集中的に分析を進めた。得られた結果をもとに西日本地域におけるミトコンドリア遺伝子の変異分布パターンの性格について再検討を加えた。この結果、西日本地域では九州地方南部から中国地方西部地域に散在する変異型をはじめて発見した。この変異出現パターンはこれまで東日本を中心に観察されていた遺伝子の系統地理パターンとは異なっており、東西地域でニホンザルの成立過程にちがいがあることを支持する新知見となった。.また、東日本地域内では高山環境に適応した中部山岳地帯のニホンザルのミトコンドリア遺伝子変異の分布特性について調査を進めた。この結果、積雪の多い高山地帯では、群分裂を介して稜線を超える分布拡大は難しいものの、オスの移住を介した地域間交流があることを初めて証明できた。
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