これまで人類が生存してきた期間の大部分は飢餓がくりかえされる厳しい食環境であり、ヒトはそのような栄養ストレスに対して適応性を獲得してきた。げっ歯類等における動物研究により、絶食や食事制限のような栄養ストレスに対して生体内では様々な神経、内分泌学、免疫学的反応が起こることが知られているが、心理的・生理的応答にも当然、影響をおよぼすことが考えられる。今回はこれらのヒトを対象に、短期的な摂取エネルギー制限が生体に対してどのような影響をおよぼすのか心理的、生理的応答の面から検討した。また、これらの影響はげっ歯類においても確認した。 対象者は大阪府内の某企業の健康増進施設において、健康増進プログラムを受講した者のうち、同意を得られた者である。同施設では主にエネルギー制限を中心とした食事指導をプログラムの中心として実施されている。対象者は無作為に中等度エネルギー制限群および軽度エネルギー制限群の二群に分けられ、摂取エネルギー以外のプログラムは同じであった。対象者に対して、施設入所後と退所前において、体温、血圧、脈拍当の理学所見、採血、採尿、フリッカー値や質問紙票による疲労度測定、POMS (Profile of Mood States)検査等を行った。 施設入所期間中、体重や血圧の低下が観察された。気分の検査結果は両群ともに変化がみられたが統計学的に有意ではなかった。疲労度にっいては疲労の低下がみられるものの、有意ではなかった。これらの結果から、食事制限により、体重減少に伴う生理的変化はみられるものの、気分や疲労度などの心理的指標には変化が見られなかった。 今回は短期間食事制限であるが、栄養不良をともなわない程度の食事制限であれば、心理的指標に関して影響を与えない、もしくは機能馴化が働いている可能性が示唆された。
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