研究概要 |
健全な植物に潜在的に感染している菌類については,ごく限られた一部を除き,その侵入様式が植物の親から子へと伝わる垂直感染か植物個体間の水平感染かどうかわかっていない.内生菌の侵入様式と感染部位の解明を目的とし,内生菌研究の報告が多く,その普遍性が周知の事実となっている木本植物アセビ(Pieris japonica)と内生菌Pestalotiopsis neglectaを用いて,その侵入様式の解明を試み,植物の抵抗性反応の可能性を推察した. 健全な葉に5x10^5個/mlに調整した分生子懸濁液を接種し,24時間静置した後に植物体への本菌の侵入を電子顕微鏡で観察した.その結果,クチクラ,気孔のいずれからも侵入は認められなかった.また,ホルマリン処理した葉にも侵入が認められなかった. 本菌は健全葉上で発芽し,その後菌糸が葉のワックス内に侵入した.しかし,ワックス層をKOHで除去した葉でも植物体内への侵入は観察できなかった.よって本菌がワックス分解酵素を産生しワックス内には侵入できるが,セルロースを分解できないために植物体内には侵入できないものと考えられた.一方,傷からの本菌の植物体内への侵入は観察された.また,PYA, PYEA両培地のそれぞれでペクチンの分解が認められ,遺伝子解析によってエンドポリガラクチュロナーゼとペクチンリアーゼの両遺伝子の存在を確認した.これらのことから,本菌はセルロースを分解できないために健全葉には侵入できないが,傷から侵入した場合は細胞間隙で蔓延できるものと考えられた. 以上の結果から本菌の侵入は本菌によって誘導された植物の抵抗性反応ではなく,葉が有する物理的障壁により侵入が妨げられる可能性が示された.
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