研究概要 |
タマネギバエDelia antiquaの冬休眠(WD)および夏休眠(SD)の分子的実態の解明のため、休眠蛹で特異的に発現している遺伝子のスクリーニングと、特異的遺伝子のノーザン解析及び定量PCRによる発現解析を行った.ディファレンシャルディスプレー法による解析の結果、休眠に特異的な遺伝子DaTrypsinを発見した.cDNAの全長は1379bpで、384a.a.をコードしており、分子量は43,005Da.と推定された.DaTrypsinタンパク質は20-a.a.の分泌シグナルペプチドとトリプシン様の活性を示すと考えられるタンパク質から構成されてた.DaTrypsinの転写活性はWDとSDの両方で上昇していたが、WDの方がmRNA量は多かった.ヒートショックはWDとSD両者の転写量をさらに増加させたが、コールドショックはSDのDaTrypsinの転写を抑制し、WDの転写には影響を与えなかった.SDでは、DaTrypsinの転写産物は休眠の進行やヒートショックに伴い蓄積量が増えたが、WDでは、DaTrypsinのmRNA量は休眠導入の当初及びヒートショックの直後にレベルが高く、時間の経過とともに低下していく傾向がみられた.DaTrypsinは休眠時に発現していることが初めて示されたセリンプロテアーゼであるとともに、SDとWDの両方で転写量が増大していることが示された初めての遺伝子である.この遺伝子は、休眠蛹の免疫防御に関与している可能性があるほか、休眠を維持する機能を保有している可能性がある.
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