パルプ漂白は、セルロースの損傷を抑えつつ、パルプ残留リグニンを効率よく除去する操作である。パルプ漂白は酸素存在下でリグニンを分解するため、生成するリグニン由来のラジカルによる遷移金属の還元、酸素の還元を伴う。本研究では、選択的白色腐朽菌であるCeriporiopsis subvermisporaの生産する新規担子菌代謝物ceriporic acidの機能研究、特に、パルプ漂白時のセルロースの損傷抑制効果の解明と鉄の酸化還元への影響の解明目的とし実験を行った。即ち、鎖長の異なるceriporic acid誘導体を合成し、鉄(III)の還元系を含むフェントン反応において、へ水酸化ラジカルの生成を抑制する程度をESRで定量し、速度論的解析を行なった。・また、鉄(II)錯体と過酸化水素との直接反応における水酸化ラジカルの生成速度をESRで定量した。また、界面活性など物理化学的諸性質を明らかにした。さらに、分子軌道計算によりceriporic acid誘導体のHOMOエネルギーを計算し、鎖長の違いが与える分子軌道への影響を評価した。また、ceriporic acidおよびそのアナログによるセルロース損傷の抑制効果をパルプの粘度測定により調べた。また、この反応における脱リグニン量も定量した。以上の実験を通して、ceriporic acid誘導体の化学的性質を明らかにし、セルロース保護効果を示す新規誘導体を見出した。
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