知的財産権の保護措置は、農業生産者や企業の新技術へのアクセスに対して、階層間、地域間、国際間で格差を拡大させる可能性がある。その結果、所得分配や、国内産業構造に対しても、何らかの影響を及ぼしていると考えられる。また同時に、それらの保護措置によって研究開発に経済的誘因が発生することにより、これまで公的機関が中心であった試験研究・開発体制に、企業が参入する機会を提供した。 しかし、企業-農業生産者間、企業-企業間で結ぶ知的財産権に関する契約(ライセンス契約)や、企業の戦略的行動いかんによっては、研究開発投資が社会的に最適な水準を下回ってしまったり、あるいは逆に過重になってしまったりする可能性がある。 本研究では上記のような問題に対して、それらを考察するために必要な理論的、方法論的フレームワークを、産業組織論、契約理論、比較制度論等をバックグラウンドとして構築することを目的としている。初年度である15年度は、主として(1)知的財産権と研究開発の収益性、(2)知的財産権との範囲と期間が研究開発等に及ぼす影響、(3)知的財産権が生産財市場に及ぼす影響、等に焦点を絞り、関連文献のサーベイを行い、理論構築のための基礎資料を収集した。 また、実証分析を行うための準備として、代表的な生産資材産業である肥料産業の研究開発に関わる企業行動の展開を整理し、市場構造と研究開発の関係を考察した。
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