研究概要 |
本研究の目的は、我が国に自生するハスの発熱現象を明らかにすることとともに、その体温調節機能を数理的に解析する点にある。従来、ハスの熱産生現象に関しては、オーストラリアに自生するハスに関する報告がなされていたのみであり(Seymour & Schultze-Motel, Nature(1996))、我が国に自生するハスの発熱現象は全く不明のまま残されていた。本研究分担者の伊藤は、2002年にオーストラリアに赴き、Seymour博士の研究室に滞在しながら現地に自生しているハスの体温測定手法を習得し、本研究の下準備を整えていた。 このような背景のもと、本年度においては後述の実験を行い、我が国に自生するハスが、恒温植物としての特性を有することをはじめて明らかにすることに成功した。 (1)岩手県中尊寺に自生するハスの体温データーの収集およびオーストラリアに自生するハスの温度変動との比較 2003年7月20日から7月30日の11日間、中尊寺境内に自生するハスの体温を気温とともに測定した。その結果、ハスの花托が特異的に発熱していることを明らかにするとともに、その体温は、外気温度が18℃程度の環境条件において、発熱により最大で31℃程度にまで上昇することを明らかにした。このような発熱は、ほぼ2日程度持続し、外気温度の変動にも関わらずその花托温度は、30℃内外に制御されていた。 (2)カオス時系列解析 得られた体温時系列データをさらに詳しく解析するため、決定論的非線形予測プログラムをC言語を用いて作成した。本解析は、局所線形近似法原理(Sugiura & May, Nature(1990))に基づくものである。また、本年度作成したプログラムの有効性を明らかにするため、典型的なカオス(ローレンツカオス)、周期関数、および、ランダムデータを用いた計算機実験を行い、当該プログラムが当初目的としていたスペックを有することを明らかにすることができた。現在、得られたハス花托の温度データを当該プログラムにより詳細に解析するとともに、相関次元、そのカオス性の評価を進めているところである。
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