成長ホルモン(GH)は、インスリン様成長因子の産生を介した成長促進活性を有するが、同時にインスリン抵抗性をはじめとした種々の代謝制御活性を示し、GHの長期連用は糖尿病を誘発する可能性があるなど、臨床上問題となっている。しかし、GHによるインスリン抵抗性の発生機構は、全く明らかとなっていない現状である。本研究では、まず、3T3-L1脂肪細胞を長時間GH処理すると、インスリンの細胞内シグナルやインスリン依存的な糖取り込み増加を担っているグルコーストランスポーター4(GLUT4)の細胞内プールから細胞膜への移行に影響しないにも関わらず、インスリン依存性糖取り込みを抑制することを確認した。続いて、GHシグナル伝達に重要と考えられているJAK2あるいはP13-kinaseの阻害剤をGH前処理時に添加したところ、どちらの阻害剤を添加しても、GHによるインスリン依存性糖取り込みの抑制が大きく回復することを見出した。これは、JAK2あるいはP13-kinaseを阻害したことにより、GHによるインスリン依存性糖取り込みの抑制効果が大部分解除されたことを示している。GLUT4は、リン酸化や糖鎖付加などの分子修飾を受けるという報告があり、その糖輸送活性には分子修飾が重要であると考えられている。そこで、GH前処理後、インスリン処理をした3T3-L1脂肪細胞から回収した細胞膜画分を二次元電気泳動に供し、抗GLUT4抗体でイムノブロットした。その結果、GH前処理により、分子質量55kDa付近のGLUT4の等電点に大きな変動は見られなかったが、90〜100kDaの高分子質量GLUT4がGH前処理により顕著に減少していた。最近、GLUT4とSUMO-1(small ubiquitin-like modifier protein)が結合し、sumolationされたGLUT4が増加すると糖取り込みが増加するという報告がある。これらの結果より、GHがSUMO-1のGLUT4への結合を阻害、糖取り込み能を抑制するという新しい作業仮説が考えられる。
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