研究概要 |
鳥類の雄生殖機能は加齢により低下し,また生殖器は感染の場でもある。本研究は,雄鶏の精巣上体において,抗精子免疫応答の発現により受精率が低下する可能性,感染防御のための生殖器免疫機構を追究したものである。前年度までに,精巣と精巣上体のT細胞の分布がエストロジェンの作用で増加すること,トランスフォーミング成長因子(TGF□)により,免疫機能が調節される可能性を見出した。本年度は,免疫応答の開始段階で働く貪食機能と抗原提示機能の調節機構について解析した。精巣にカーボン粒子やラテックスビーズを投与すると精巣上体管系の上皮細胞がこれらを貪食することを認めた。培養系では,この貪食機能は低下した。次に,抗原提示機能を解析するために,主要組織適合抗原複合体クラスII(MHCクラスII)の遺伝子発現とIa陽性細胞の免疫染色を行った。その結果,Iaは精巣上体管系と精管の表面上皮,上皮下層および管内に認められた。また,これらの組織にはMHCクラスIIのmRNA発現が認められた。精巣上体では上皮下層のIa陽性細胞は近位精巣輸出管で他の管より多かった。近位精巣輸出管の上皮下層のIa陽性細胞は60と150日齢では有意な差を示さなかったが,330と550日齢では60日齢より多かった。精管のIa陽性細胞は,性成熟により増加し,以後の加齢によってさらに増加した。精巣上体のIa陽性細胞の分布はEBによって増加したが,TPによる影響は受けなかった。これらの結果から精巣上体の抗原提示機能は性成熟後の加齢に伴って増加し,この増加にはエストロジェンが1つの要因として関与するものと考えられた。本研究の全体をまとめると,精巣上体は免疫応答が起こるための免疫担当細胞を備えており,その分布は加齢と内分泌的影響を受け,とくにエストロジェンはこれらを増加させるものと考えられ,一方でTGF□がこれを抑制する可能性が考えられた。
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