犯罪捜査などの法医鑑識領域において獣毛からの異同識別は重要である。特に動物種として、ペットとして広く飼育されているイヌとネコはその対照となる。そこで、数多くのネコおよびイヌの毛からミトコンドリアDNA(mtDNA)の配列変異を分析し、その多型性を調べるとともに個体識別の可能性を探った。血縁関係の認められない31品種、135個体のネコおよび21品種、149個体のイヌの被毛からDNAを抽出した。ネコについては予め代表者が決定したD-loop領域の塩基配列情報に基づきプライマーを設定し、RS2領域を含むD-ループの変異領域の一部をPCRで増幅した。本領域内において、数多くの個体で約80bpを反復単位とするlength heteroplasmyが認められた。本領域のうち、計442bpからなる高変異領域の塩基配列を決定し、比較した結果、56ヶ所の多型部位が認められ、その配列変異に基づいて135頭のネコは、47のmtDNA型(FC01〜47型)分類された。そのうちの29個は1頭ずつしかみられない特徴的な型であった。さらに、いくつかの個体では点突然変異由来のヘテロプラズミーもみられた。親子・兄弟におけるヘテロプラズミーの異同も確認した。イヌについては、既知の2組のプライマーセットを用いて、tRNA^<-Pro>遺伝子部分とD-ループ領域の5'末端側を含む2ヶ所の領域を増幅し、可変領域を中心とした計714bpの配列を解析した。その結果、149頭は26のmtDNA型(CF01〜26型)に分類された。CF01型は約40%と高頻度であった。CF3とCF4型は小型犬で多かった。また、品種特異性は確認できなかったが、CF7型は柴犬でCF13型はビアデッドコリーで主に見られた。以上、本研究結果はネコとイヌの微量の被毛からの個体識別における有力なDNAデータベースとなると考えられた。
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