地下水のヒ素汚染は南アジアなどで深刻な問題となっている。マンガン酸化バクテリアの1つである桿菌SG-1の休眠胞子は、その表面酵素の触媒作用により、3価のヒ素イオンを5価イオンへの酸化する反応や、難分解有機物を酸化分解するマンガン酸化物の生成を促進すると推測される。生成したマンガン酸化は鉄2価イオンの有機物錯体を酸化して5価のヒ素を効率良く吸着する鉄水酸化物の生成を促進する。本研究はSG-1休眠胞子の環境水中のヒ素の浄化処理能力の可能性と適応範囲について確定することを目的としている。 平成15年度では以下の4点について行った。1)水素化物発生装置とICP発光装置を組み合わせるだけで、本研究に必要な定量限界(約1ppbμg/l)で三価と五価のヒ素イオンを分別定量する操作をルーチン化した。2)実験に使用する桿菌SG-1の休眠胞子は本研究の海外共同研究者のテボ博士の研究室で培養した後、北大へ冷凍輸送した。3)その酵素を用いて、初期マンガンイオン濃度でマンガン酸化速度に変化があるかを測定した。その結果、溶液中にカルシウムが存在するとマンガンイオン濃度とマンガン酸化速度とは反比例の関係にあるのに対して、カルシウムが溶存しない場合には、一般の触媒作用を示す変化を示した。この違いはカルシウムが存在下で生成するマンガン酸化物種がトドロカイトという休眠胞子を覆うような鉱物であるために、それが酸化反応を阻害するのではないかと推測している。4)2価のマンガンイオンと3価のヒ素イオンが共存している時にはまずマンガンの2価を優先的に酸化してマンガン酸化物を生成するが、マンガン2価イオンがなくなると、3価のヒ素イオンの5価へ酸化反応を強く促進することがわかった。なお、本研究の内容は「HG-ICP-AESを用いた無機As(III)及びAs(V)の分別定量とマンガン酸化酵素のヒ素浄化機能の検討」という修士論文として発表された。平成16年度は、有機物や鉄イオンとの共存状態について実験を行う。
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