土壌中の有害重金属による農作物の汚染やそれを介した人体への被害は、現在深刻な問題となっている。本研究では、物質輸送に関する分子ポンプであるABCトランスポーターをツールとした「輸送エンジニアリング」の構想に基づき、カドミウムを輸送性のABCトランスポータ遺伝子をツールとしてこれを植物に発現させ、これを用いた新しい環境浄化技術を確立することを目的としている。 本年度は、カドミウム輸送に直接関与することがこれまでに知られているMRP(multidrug resistance-associated protein)のファミリーに属するABCトランスポータのメンバーの内、ヒトMRP1および酵母のカドミウム耐性蛋白YCF1を、タバコをモデル・ホストとして発現させてみた。ヒトMRP1は、タバコ植物体で膜蛋白質として発現したため、抗体を用いて膜分画を行い、液胞膜に特異的に局在することを突き止めた。これは、植物における膜蛋白の局在部位のデフォルトが液胞膜であることを示唆している。MRP1形質転換体は、ダウノルビシンや除草剤のアラクロールに対して耐性を示すとともに、カドミウムに対してもある程度の耐性を示した。また、形質転換体の方が培地からのカドミウムやダウノルビシンの取り込みが高いことが認められた。 一方、Ycf1はmRNAレベルでは高い発現がタバコの多くのクローンで認められたが、ウエスタンブロットの結果、蛋白質レベルでの発現は認められなかった。現在、ホスト植物の選定を検討している。
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