土壌中の有害重金属による農作物の汚染やそれを介した人体への被害は、境在深刻な問題となっている。本研究では、物質輸送に関する分子ポンプであるABCトランスポーターをツールとした輸送工学の手法を駆使し、カドミウムを輸送性のABCトランスポータ遺伝子(ヒトMRP1および酵母Ycf1)をツールとしてこれを植物に発現させ、これを用いた新しい環境浄化技術を確立することを目的とした。 カドミウム輸送性のヒトMRP1タンパク質を発現タバコは、T3世代の植物体においてカドミウム耐性と輸送速度を検定した。その結果、本植物は根からのカドミウム吸収速度は野生型と大差なかったが、明確なカドミウム耐性を示し、野生株の死滅する濃度でも良い生育を示した。この一つの理由として、根におけるMRP1のレベルが低いことがウェスタン解析により示された。しかし、この遺伝子は環境浄化に十分利用可能と判断された。 一方、酵母のカドミウム耐性蛋白YCF1を導入した36ラインのタバコ形質転換体は、ウエスタンブロットで明確なバンドを示さないものの、中に明確なカドミウム耐性を示すクローンが4つ見つかった。抗体との反応性が低いことに関しては不明な点はあるが、これらカドミウム耐性クローンは植物による重金属浄化への応用研究に向けた優良株として保存するとともにさらに解析を進めている。 根で吸収されたカドミウムを地上部へ転流させるための輸送工学には、細胞膜アンカーが必要となる。ここでは、シロイヌナズナの細胞膜酵素Korの一部をクローニングして、Ycf1との融合タンパク質とするコンストラクトを作成した。予想外に作成に手間取ったため配列の確認が済んでいないが、確認を終了し次第、シロイヌナズナをホストとして、デザイン通りのカドミウム転流が認められるかを調べる予定である。
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