研究概要 |
パラジウム触媒は数多くの合成法を生み出し,従来法では困難な様々な新規化学変換法や複雑な骨格の効率的合成を可能にしてきた.報告者らは,新規反応活性種の創出と合成反応への利用を目的として研究を行い,平成15年度に以下の成果を得た. (1)パラジウムカルベノイドの新しい発生法を用いた新規環形成反応の開発 パラジウムカルベノイド種は,オレフィンとの反応によりシクロプロパン体を生成する有用な反応活性種である.その発生には危険性の高いジアゾニウム化合物を用いるのが一般的であり,π-アリル錯体やアレンを用いた発生法は皆無であった.我々は,エンアレンに対してアリルメチルカルボナート存在下パラジウム触媒を作用させると,興味深いシクロプロパン化反応が進行することを見出した(Org. Lett. 2003,5,4763).本反応は,連続するカルボパラデーションによる機構も否定できないが,カルベノイド機構により進行している可能性があり,今後のより詳細な検討により反応機構を明らかにしていく予定である. (2)パラジウム触媒により生じるスルフェン酸亜鉛種を用いた新規反応の開発 申請者らが独自に見出した,1-アルキニルスルホキドとパラジウム触媒によって合成困難なスルフェン酸亜鉛種を発生させる新手法について,さらに詳細な検討を実施した.その結果,ビニルスルホキシドの幾何異性体の立体分岐型合成や,隣接基関与を利用したビスアルキノエートの位置選択的スルフィニル化反応,生成するビニル亜鉛種を利用した3置換ビニルスルホキシド類の立体選択的合成,不斉補助基を導入したスルフェン酸亜鉛種を用いた初めての不斉スルフィニル亜鉛化反応の開発などの成果を得ることができた.
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