研究概要 |
分子内ジスルフィド結合異常をもつ変異型AT(AT Morioka(Cys95Arg))が、小胞体では分解されず、細胞質中に出現するRussell body様構造体に蓄積することを発見した。そこで本年度は、ATのジスルフィド結合異常とRussell body形成の関連性、Russell body形成に伴う小胞体ストレスについて解析し、以下の新知見を得た。 1.AT分子内の2っのジスルフィド結合を担う各CysをArgに置換した変異型AT、ジスルフィド結合を担うペアーのCysをArgに置換した変異型ATを安定過剰発現するCHO細胞を作製し、各変異型ATの細胞内蓄積を解析した。その結果、AT(Cys8,128Arg)以外の変異型ATは、細胞外への分泌速度が低下し、かつ細胞内での分解を受けず、Russell body様構造体を形成した。さらに、Russell body様構造体を形成する変異型ATは、小胞体内で多量体を形成していた。多量体形成により変異型ATが小胞体に滞留し、Russell body様が形成されることが示唆された。 2.Russell body様構造体の形成過程を解析するため、ドキソサイクリン添加の有無(Tet-Onシステム)により変異AT(Cys95Arg)の生合成を厳密に制御できるCHO細胞を作製した。ドキソサイクリン添加後、経時的に変異型ATの蓄積を免疫電顕で観察すると、変異型ATの蓄積に伴い小胞体の局所的な膨潤が起こり、Russell body様構造体が形成されることが示唆された。 3.Tet-Onシステムを用い、Russell body様構造体の形成に伴う小胞体ストレスを、小胞体シャペロン分子の誘導の観点から解析した。その結果、顕著なGRP78、PDIなどの誘導は観察されなかった。よって、Russell bodyの形成は、unfolding protein responseとは異なるユニークな分子機構が関与する可能性が示唆された。
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