我々は、分子内ジスルフィド結合異常をもつ変異型アンチトロンビン(AT)が小胞体に蓄積しRussell body様構造体を形成することを発見した。さらに変異型ATの小胞体蓄積には、AT分子の多量体形成ならびに小胞体分子シャペロンGRP78との結合が重要であることを報告した。本年度は、Russell body様構造体の形成過程とその後の運命、Russell body様構造体形成と小胞体ストレスとの関連性を検討し、以下の新知見を得た。 1.ドキシサイクリン添加により変異型ATの生合成を開始させ、AT分子の小胞体蓄積とRussell body様構造体形成との関連性を、免疫電顕、通常電顕ならびに蛍光抗体法により解析した。その結果、変異型AT分子は小胞体の一部に集積すること、Russell body様構造体は変異型AT分子が集積した部位の膨張により形成されること、Russell body様構造体は小胞体と連続していることを明らかにした。 2.Russell body様構造体形成後、ドキシサイクリンを除去し変異型ATの生合成を停止させた。その後、Russell body様構造体の運命を解析した。その結果、細胞内のAT量の減少に伴いRussell body様構造体の大きさが縮小し、小胞体上に分散することを見出した。この過程にオートファージが関与する可能性を検証する予定である。 3.Russell body様構造体形成は、小胞体分子シャペロンやリン脂質の生合成を誘導しないことが明らかになった。変異型AT蓄積によるRussell body様構造体形成は、unfolding protein responseを伴わないユニークなものであった。 4.AT欠乏症患者より、プロテアソームで分解される新規変異型AT(ΔMet103)を発見した。AT(ΔMet103)とAT(C95R)の分子特性を比較した結果、小胞体における多量体の形成の有無により、変異型ATが蓄積するか分解されるかの運命が決まる可能性が示唆された。
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