研究概要 |
癌転移を抑制するためには、転移初期のプロセスである毛細血管の塞栓およびそれに引き続く内皮細胞への接着を抑制することが有効と考えられる。そのためには、塞栓・接着といった転移形成初期過程を定量的に評価可能な実験・解析法の開発が不可欠である。そこで本研究では、まず、メラノーマB16-BL6に対し、ルシフェラーゼ発現プラスミドをトランスフェクションすることで安定発現株を作成した。得られたB16-BL6/Luc細胞のルシフェラーゼ活性は長期間安定であり、細胞の増殖過程、あるいは種々環境の変化に依存した変動は示さなかった。摘出したマウス肺を用いた検討から、60個以上の細胞が存在すれば検出可能であることが明らかとなり、従来の組織表面の結節数を指標とする評価法と比較しで1000倍以上の感度であることが示された。そこで、癌細胞の体内動態ならびに増殖を解明することを目的に、マウス尾静脈内に癌細胞を注射し、経時的に肺を摘出して肺中癌細胞数を評価した。その結果、全ての場合において投与1時間後には投与した細胞の60〜90%が肺中に検出されたがその後減少し、投与24時間後には数%となった。投与癌細胞数が100,000個以上の場合には、24時間以降速やかな癌細胞の増殖が認められた。投与直前に、PEG修飾を施した牛肝臓カタラーゼ(PEG-CAT)を1000unit投与することにより、24時間後の癌細胞数は有意に減少した。従って、PEG-CATは癌細胞の肺での塞栓・接着などの初期過程に対して抑制的に作用することが示唆された。一方、PEG-CATを癌細胞移植の1日後、あるいは3日後に投与した場合にも7日後の癌細胞数を指標に評価したところ同程度の抑制効果が認められ、カタラーゼ誘導体は、癌転移・増殖の様々な過程に対して転移巣の成立・増大に対して抑制的に作用することが示された。
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