研究概要 |
生物の体内時計は環境の明暗情報にもとづいて微調整されているが、ヒトを含めた哺乳動物の体内時計が明暗サイクルに同調する仕組みについては、断片的な現象しか報告されていない。それは哺乳類の光同調が、網膜と概日時計中枢である視床下部・視交叉上核(SCN)のふたつの組織によってもたらされているからである。体内時計は基本的に細胞内で起きる時計関係遺伝子発現のフィードバックループで形成されている。今回、時計遺伝子として代表的なものであるクリプトクローム遺伝子(Cry1,Cry2)をノックアウトしたマウス(Cry1/Cry2ダブルノックアウト;WKO)マウスについて、行動実験により行動リズムの解析と恒暗条件下での波長500nmの単波長光刺激に対する同調応答を解析した。さらに、ウレタン麻酔したWKOマウスの網膜への同光刺激に対する、体内時計中枢であるSCNニューロンの細胞外スパイク発火頻度の変化を記録した。この結果、まず野生型マウスのSCNニューロンは、昼間には光にほとんど反応せず、夜間の前半期に与えた光に対して、9割以上が反応を示した。つまり時間帯によって反応性を大きく変化させることが明らかになった。SCNニューロンの光反応は、光照射に対して発火頻度を増加させる亢進型、頻度を減少させる抑制型、光に対して無反応の3型に分類され、夜間の光反応はほとんどが亢進型だった。亢進型SCNニューロンに対して光強度応答関係の解析を行うと、網膜の通常の光感度より閾値を持ち、およそ3対数単位の作動範囲を持ち、高い光強度では反応が飽和することが明らかになった。これらの特性は行動実験から得られた光同調の特性とよくあう。Cryダブルノックアウトマウスでは、夜間のSCNニューロンの光反応性が優位に低下しており、昼夜の反応性の違いが小さいかほとんどなくなっていることが判明した。したがって、SCNの光反応にとって、Cry遺伝子が重要な働きをしていることが示唆された。
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