研究概要 |
腎臓は、高度に分化した臓器で再生しないと考えられてきた。しかし、最近多臓器に、臓器特異的幹細胞が発見され、分化誘導が試みられている。本研究は、腎臓の前駆細胞あるいは腎幹細胞と考えられている、後腎未分化間葉細胞の性格を明らかにし、特異的マーカーを確立することである。 まず、未分化後腎間葉細胞のクローン細胞株をSV40 T抗原トランスジェニックマウス胎児(E11.5)腎臓から樹立した(MS7細胞株)。MS7は、紡錘形で間葉細胞の形態を示し、RT-PCRでは、NCAM, WT1,vimentin, Flk1,Flt1,Tie2,podocalyxinの遺伝子発現を認めたことから、血管内皮細胞としての性格を持つことが分かった。しかし、他の血管内皮細胞のマーカーであるVEcadherinや、成熟度の高いマーカーであるvWF, CD31の発現は認めなかった。次に、本細胞が血管内皮細胞に分化するか否かについて、分化誘導実験を行った結果、細胞をconfluentな状態で培養すると、細胞周期は停止し、遺伝子レベルではVE-cadherin, vWFの発現を認めた。 この現象は、Vecadherinでは、培養4日目に、vWFでは培養14日目にそれぞれ発現亢進を認めた。さらにvWFでは蛋白レベルの増加を認めたが、VEcadherinではこれを認めなかった。また、VEGF, FGF-2などの成長因子による刺激は、この分化誘導を促すという結果は得られなかった。Collagen I, IVをコーティングした培養条件でも、これらの遺伝子発現には変化を認めなかった。 以上から、未分化腎間葉細胞(MS7)は、その遺伝子発現プロファイルから、血管内皮細胞に類似した形質を持つこと、培養条件によっては分化型マーカーの発現が蛋白レベルでも誘導されることが分かった。
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