研究概要 |
活性化rasを導入して誘導される実験的発がんでは、正常のrasアレルの欠損が悪性転換にとって必要となる場合があることが示されている。これは、野性型ras遺伝子のがん抑制遺伝子としての働きを示唆している。本計画では、N-ras遺伝子のがん抑制遺伝子としての作用を解明し、そのことによって得られる,知見をヒト癌の診断治療に役立てることを提案した。本研究費によって支援された我々の研究の到達点は下記の通りである。 1)N-ras遺伝子のがん抑制効果の発見 Rbヘテロ型に加えN-ras野生型、ヘテロ型、ホモ型となったマウスを作製し長期間観察した。これらのマウスでは、Rb遺伝子のLOHが必発し、下垂体およびC細胞由来の腫瘍が生じる。Rbヘテロ型N-rasホモ型マウスに生じるC細胞腫瘍はN-rasが野性型であるマウスでその組織型が腺腫と診断されるのと大きく異なり、著しい悪性所見(高い浸潤・転移性)を呈することを見いだした。 2)N-ras遺伝子のがん抑制遺伝子としての挙動の発見 同様の悪性所見をRbヘテロ型N-rasヘテロ型マウスに生じるC細胞腫瘍においても高頻度に見いだした。これらの悪性C細胞腫瘍では野性型N-ras遺伝子の欠損(LOH)が声頻度に検知されること、LOHの有無がC細胞腫の転移性と有意に相関することを見いだした。 3)N-ras遺伝子のがん抑制効果のメカニズムの解明へ Rbヘテロ型N-rasホモ型マウスに生じた高転移性C細胞腫瘍原発巣および転移巣より細胞株を樹立した。レンチウイルス感染系をもちいて、これらの細胞株において野生型N-ras遣伝子を再構成し、その表現型をコントロールと比較している。これに続いて、野生型N-ras遣伝子に特異的なターゲット遺伝子群の網羅的同定をマイクロアレイ解析によっておこなう準備を行っている。
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