研究概要 |
方法:全長Bach1あるいはその断片をEGFPに融合する発現プラスミドを作成し,各種細胞で一過性に発現した。そして,細胞をヘミンで処理した後,Bach1リポーター蛋白質の細胞内分布を蛍光顕微鏡にて観察した。 結果:Bach1は,ヘミン処理により核から細胞質へと局在を変えた。この核外移行は4時間内に生じた。Crm1阻害剤LMB存在下ではこの移行は認められないことから,Crm1依存性の核外排出と判断された。ヘミンで活性化される核外排出シグナルを同定するために様々な断片に対するヘミン効果を比較したところ,約30アミノ酸の配列内にこの活性がマップされた。この領域はヘムを直接結合することを生化学的に証明することができた。したがって,ヘムはBach1と直接結合し,その核外排出を活性化することが理解された。 考察:特に興味深いのは,ヘムがBach1を標的として転写を制御することである。ヘムは,様々な酵素の補欠分子として,酸素結合や電子伝達に関与し,生命にとって必須の分子である。このような分子が転写因子に直接作用することは,何を意味するのであろうか?組織レベルで考えてみると,出血や組織障害時には大量のヘモグロビンが局所に放出される。この時,局所に蓄積したヘモグロビンからヘムが遊離し,周辺細胞に取り込まれることが報告されている。このような状況下でも細胞内遊離ヘム量は増大するであろう。増大したヘムがBach1に結合することは十分に予想できる。
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