研究概要 |
成長ホルモン受容体やトランスフェリン受容体など多くのホルモン受容体の細胞外ドメインが血清中に存在することが報告されている。ヒトインスリン受容体cDNAは申請者らが1985年クローニングして構造決定を行った(Cell,1985,Ebina et al.)。 血中インスリン受容体αサブユニットはインスリンと結合するので、血中の実質的なインスリン濃度を下げ、一部の患者で糖尿病発症の増悪因子となる可能性がある。まず、マウスに精製したインスリン受容体αサブユニットを投与すると血糖値が上昇することが明らかとなった。またαサブユニットを投与後ブドウ糖負荷試験をするとコントロールに比較し高血糖を示すことが明らかになった。ヒト血清中にインスリン受容体αサブユニットが存在すれば、糖尿病増悪因子になりうる事を発表した(BBRC, Kanezaki et al.2003)。 申請者らは"ヒト血清中には微量の可溶性インスリン受容体αサブユニットが存在し、その量が糖尿病発症と関連する可能性がある"という仮説をたて、血清中インスリン受容体αサブユニットを正確に定量するELISA系を確立した。そしてインスリン受容体の細胞外ドメイン(インスリン結合ドメイン)が切断され、血中に遊離し循環している事を発見した。糖尿病患者において高血糖状態が続くとインスリン受容体が切断され、血中に増量する事を見出し、それが糖毒性の一因ではないかという仮説を提唱している。また、培養細胞を用いた実験から、メディウムを高グルコースにするとαサブユニットが遊離してくること、またこれはタンパク分解阻害剤で抑制される事を見出した。糖尿病研究の全く新しい一面を開拓しつつある研究であると考えている。
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