外界に接している臓器で異物の進入を先ず阻むという「フロントラインの生体防御機能」としての異物排出蛋白質の役割を明らかにするために、動物モデルを用いて、異物排出蛋白質の機能欠損と分子病態との因果関係を証明する事を試みた。【1】P-gp/MDR1の欠損マウスを用いて分子病態解析と発がん感受性解析を計画した。腫瘍形成の検出感度を上げ、自然発がんの感受性を定量的に評価するために、家族性大腸ポリポーシスの責任遺伝子Apcの欠損アリルを導入し、MDR1・Apc遺伝子二重欠損マウスを作製した。以下、二重欠損マウスはP-gp/MDR1欠損マウスと、Apc遺伝子単独欠損マウスは野生型マウスと略記する。【2】P-gp/MDR1欠損マウスの小腸および大腸においては、DNA損傷の指標である8-oxo-dGが濃染されたが、野生型マウスでは染色される例はなかった。【3】P-gp/MDR1欠損マウスの腸管腫瘍形成は、野生型マウスに比べ腫瘍数・平均腫瘍径共に有意に低下していた。また、腫瘍径で3mm以上の腫瘍が認められた個体数もP-gp/MDR1欠損マウス群において有意に低かった。すなわち、「P-gp/MDR1は異物の排除により生体を防御しているが、一方では、発がんに促進的に関与する」ことが明らかになった。本研究結果は、今後、他の異物排出蛋白質群へと解析を拡大するための理論的根拠を与えるとともに、ヒト病態解析と疾患感受性予測へと拡大、発展させるための基盤を提示するものである。
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