研究概要 |
本研究では、マンソン住血吸虫スポロシストへの遺伝子導入に必要な技術基盤の確立を目的として、各種遺伝子導入法の有用性について検討した。平成15年度に引き続き、遺伝子銃を用いた遺伝子導入を試みたが、レポーター遺伝子である緑色蛍光蛋白質(GFP)遺伝子の発現は認められなかった。この結果は、当初発表された、遺伝子導入に成功したという報告(Wippersteg, et al.Mol Biochem Parasitol.2002 120:141-50)と矛盾し、その後別のグループから発表された、遺伝子銃を用いた遺伝子導入ではGFPは検出されないという報告(Heyers, et al.Exp Parasitol.2003 105:174-8)と一致する。遺伝子銃による導入法では、DNAをコートした微小金粒子をスポロシストに打ち込むが、スポロシストは多細胞体のため、金粒子が細胞内部ではなく体腔に移行した場合には発現は期待できず、また、仮に細胞内でレポーター遺伝子が発現したとしても発現レベルが非常に低く、GFPが検出されなかったことが想定される。そこで本年度は、遺伝子銃に加えて、スポロシスト体内に直接をDNAを注入することができるマイクロインジェクション法を用いて遺伝子導入の可能性について検討した。マンソン住血吸虫のtriose phosphate isomerase(TPI)遺伝子のプロモーター領域およびポリ(A)付加領域を含む非翻訳配列でGFP遺伝子を挟み込んだプラスミド(pTPI:GFP)を作製し、in vitroで転換したスポロシストにマイクロインジェクションを行なった。GFP特異的プライマーを用いたPCRにより、GFP遺伝子が確かにスポロシスト体内に導入されたことが確認された。しかしながら、蛍光顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡を用いた観察では、GFP蛍光と自家蛍光の判別が難しく、現在、他のレポーター遺伝子およびプロモーター領域を用いて解析を進めている。 本研究結果は、住血吸虫への遺伝子導入が非常に困難であることを改めて示すものである。しかしながら、重要熱帯病の病原体であり、生物学的に未知の部分が多い住血吸虫に対して、分子生物学的・遺伝学的アプローチを可能にするためにも遺伝子導入技法を確立していく必要がある。
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