ヘリコバクター・ピロリに知られる唯一の蛋白毒素毒素である空胞化毒素(VacA)の病原性を明らかにするために、VacAの宿主受容体がRPTPβであることを細胞レベルで明らかにしている。その際、VacA毒素の空胞活性の測定は、仔牛血清の存在下で培養した胃粘膜株化細胞を用いて行っているが、興味深いことにこの血清を除いた培地で空胞活性を測定すると、VacA毒素活性が著明に亢進することを経験的に見いだした。この仔牛血清のVacA毒素活性阻害物質は、比較的高分子量の耐熱性且つプロティネースKおよびシアリダーゼ処理によって活性を失うことから、糖蛋白質である。またこの糖蛋白は、VacA毒素と受容体との結合を拮抗的に阻害した。同様な知見はヒト血清を用いても観察されたことから、このVacA毒素阻害物質をヒトの血清から精製し、その物質的特性と作用機序を明らかにすることを目的として研究を進めている。精製の手法を確立するためにビオチン化標識したVacAを多量に調製し、ヒト血清とインキュベーションした後にアビジンをゲルに結合させたカラムを用いて精製を試みたが有効ではなかった。中性付近での陰、陽両イオン交換樹脂を用いたカラムクロマト法ではいずれも未吸着画分に溶出され、Superrose 6を用いたゲルろ過でもパススルーの画分に溶出された。純度などの解析と精製標品の構造と解明を引き続き進めている。 並行して進めている、レクチンを用いたRPTPβの糖鎖構造の解析においてMAAのみがVacAの空胞化活性を阻害した。MAAは末端糖鎖のα(2-3)結合したシアル酸を認識するレクチンであり、VacAはこの部位を認識し結合することがわかった。興味深いことにα(2-3)結合したシアル酸を有するガングリオシドも阻害活性があることから血清成分中に認められる阻害物質の糖鎖の構造相関が考えられる。
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