細菌は、増殖の定常期状態やアミノ酸・糖などの栄養が枯渇した環境、あるいは酸化的ストレスなどのストレス環境下では、緊縮応答(stringent response)によってこれらの環境変化に適応し、生存を可能にする。本研究は、Salmonella enterica serovar Typhimuriumにおいて、ppGppにより遺伝子発現調節される病原因子を同定し、マクロファージ細胞内環境への適応メカニズムを解明することを試みた。S.Typhimurium ATCC1402ナリジクス酸耐性株SH100を親株としてrelA spoT二重変異株を作製し、一般的性状について解析した。本変異は、ppGppを完全に合成できないppGpp^0形質を示し、また、アミノ酸要求性であった。各種ストレスに対する抵抗性を親株と比較すると、酸および熱に対する抵抗性が低下していた。さらに、S.Typhimurium relA spoT二重変異株のマウスに対する病原性は、著しく低下していた。S.Typhimuriumによる感染過程において、感染成立までに必要な3つのビルレンス形質、Salmonella pathogenicity island 1(SPI-1)、Salmonella pathogenicity island 2(SPI-2)およびspv領域が関与する。したがって、まず、これらの遺伝子領域の発現に対するppGppの影響について検討した。その結果、いずれのビルレンス形質の発現調節遺伝子の転写活性は、親株と比較して、relA spoT二重変異株において、著しく低下していた。以上の結果から、Salmonellaにおいて、ppGppによる緊縮応答が病原性発現に直接的あるいは間接的に関与していることが示された。今後、ppGppにより発現調節される因子について、二次元電気泳動法およびMALDI-TOF-MSを組み合わせて同定する予定である。
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