神経ウイルスの多くは、脳内に持続感染を起こし、遅発性に病原性を発揮する。その機序には、ウイルス蛋白質による神経細胞の機能的な破壊が関与している。実験動物を使用した神経病理学的な解析により、神経ウイルスのほとんどは、脳内でシナプスの形成能あるいはその維持能力を低下させ、神経細胞の機能低下を引き起こしていることが確認されている。しかし、神経細胞あるいはグリア細胞に感染したウイルスがどのようにして神経ネットワークの形成に重要なシナプスを崩壊させているのかについては明らかになっていない。そこでこの研究では、ウイルスのヴィルレンス因子が、シナプス形成に傷害を与える分子機序を、ボルナ病ウイルス(BDV)感染をモデルに明らかにするとともに、神経ウイルスが中枢神経系の恒常性を破壊する共通機構を解明しようというものである。研究の初年度である本年度は、BDV持続感染がシナプス形成能力に与える影響を、神経系細胞を用いて解析した。その結果、BDV持続感染細胞では、一定時間内における突起の伸長幅が減少しているとともに、細胞間の接着に重要な働きを示すN-カドヘリンの染色性も低下していることが明らかとなった。また、BDV持続感染細胞は、様々なストレス(温度、酸、UV、飢餓など)に対して急激な円形化と培養プレートからの剥離を示し、細胞骨格維持能力が顕著に低下していることが示された。これらの結果より、BDV持続感染細胞では、シナプスの安定した形成に関与する細胞間同士の接着能力ならびに細胞骨格維持能力に異常がある可能性が示された。今後、これらの詳細な分子機序とともに、直接関与するウイルス側の因子についても解明をおこなう予定である。
|