研究概要 |
本研究では,薬物の脳移行性の個人差を定量的に予測する方法論の確立を目的とした。臨床において心機能診断薬として広く用いられている^<99m>Tc-sestamibi(^<99m>Tc-MIBI)は,LLC-GA5-COL150細胞(P-糖蛋白質過剰発現細胞)を用いた経細胞輸送実験によりP-糖蛋白質の良好な基質であることを確認した。また,in vivoラットを用いて^<99m>Tc-MIBI投与後の脳各部位(大脳,小脳,脈絡叢)への移行を確認したところ,^<99m>Tc-MIBIは各部位への分布が認められ,各組織への移行クリアランス(K_1)及び排出速度定数(k_2)をインテグレーションプロットで算出できた。 以上の知見をもとに,健常人による臨床試験を行った。健常成人被験者6名に^<99m>Tc-MIBI 600MBq(常用量)を静脈内投与し,経時的に脳のSPECT(Single-photon emmision computed tomography)画像を撮像することで脳組織における^<99m>Tc-MIBI濃度をモニターした。その結果,大脳,小脳及び脈絡叢においてシグナルを確認できた。また,算出された脳各組織へのK_1及びk_2を評価したところ,ラットにおいて実測値から算出された^<99m>TC-MIBIの移行特性と非常に類似していることが分かった。よって,^<99m>Tc-MIBIの脳移行動態は,SPECTを用いることにより評価可能であることが示された。 6人の被験者から得られた大脳におけるk_2値は大きな個人差が認められた。また,P-糖蛋白質をコードするMDR1遺伝子の1236位(C1236T),2677位(G,A2677T)及び3435位(C3435T)を全てホモ型で変異を有している被験者において,大脳におけるk_2値は他と比較して顕著に小さかった。
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