研究概要 |
疫学研究より、ヒトが大気中微小粒子に長期曝露されるとアレルギーや喘息が生じることが示唆されている。しかし、大気中微小粒子に含まれている如何なる化学成分がこのような疾患と関係するかは明らかにされていない。当研究室は最近、大気中微小粒子に含まれる新規キノン系化合物として1,2-ナフトキノン(NQ)の存在を明らかにしている。また、NQが気管収縮を引き起こし、上皮成長因子受容体(EGFR)を含む気管タンパク質のチロシンリン酸化を亢進することを見出した。これらの知見は、NQによるプロテインチロシンポスファターゼ(PTPs)の機能障害に由来するチロシンリン酸化を介したシグナル伝達経路撹乱が、気管収縮に関与していることを示唆している。そこで本研究では、EGFRの負の制御因子であるPTP1Bに対するNQの効果について検討を行った。NQは用量依存的にPTP1B活性を阻害し、ジチオスレイトールによる還元反応においても活性の回復は認められなかった。これはチオール基の酸化ではなく不可逆的な修飾であることを示唆しており、Western blot解析から共有結合によるアルキル化であることが明らかとなった。さらに、NQはモルモット気管収縮が十分見られ、かつPTP1B活性をほとんど消失させるような条件下(50μM)において、PTP1B分子中に存在する6個のCys残基のうち1個のみが修飾された。最終的にMALDI-TOF-MS解析により、NQのチオール基修飾部位は活性部位のCys215ではなくCys32であることが示された。以上の結果より、NQはCys32への特異的共有結合に伴い高次構造を変化させ、活性低下を引き起こすというPTP1Bの新規活性阻害機構が立証された。
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