研究概要 |
本年度は3カ年計画の最終年度にあたり、循環器疾患追跡調査期間の延長とそのデータベースの完成・測定ならびに集計解析を主たる目標として研究を実施した。E県A市において1997-1998年の間にベースライン調査を実施し、その後、追跡調査を実施している地域集団(男女計4,269人:40〜79歳)を本研究の母集団に用い、該当地区における精神科を除く全病院への循環器疾患出張採録、転出及び死亡状況の把握を行い2004年12月31日まで追跡を延長した結果、計28,132人年のデータセットの作成が完了した。またWHO/MONICAの診断基準に即して87例(71±7歳)の脳卒中発症を把握した(脳梗塞68例、脳出血12例、くも膜下出血7例)。これらの脳卒中発症例をcase群として、性・年齢をマッチさせたcontrol群を同一コホート内から1:2の割合で抽出し、凍結血清を用いてVEGF及びTGFβ1の測定を実施した。 Controlに相当する174例を用いて既知の循環器疾患危険因子との関連について共分散分析により性・年齢・喫煙状況を調整して解析を行った結果、TGFβ1は、血清総コレステロール値の増加(4category)に伴い有意な上昇を認めた。また、循環器疾患危険因子(高血圧・高脂血症・耐糖能異常・肥満)の集積に伴い有意な増加を示し、本結果からは血管内皮障害抑制作用を有するとされるNO合成に関するeNOSの産生が増加していることが認められ、本指標は脳卒中発症を抑制するための生体反応の代替因子として有用であることが示唆された。 また、本研究を通じて、ELISA試薬の感度の改良によって、本指標は安定して測定できることも確認できており、今後の循環器疾患対策の新しい指標として公衆衛生上の意義が高い結果が得られた。今後、脳卒中病型別との関連について報告していく予定である。
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