研究概要 |
私達の作成/解析したNa, K-ATPaseα2サブユニット遺伝子欠損ヘテロマウスは、恐怖/不安に関連した行動に異常を示すと同時に生後3ヶ月以降に肥満を呈する。ストレスを感じた結果肥満になるのか、肥満そのものが別の原因であるのかを明確にする目的で、下記の実験及び観察を行った。 (1)同腹のNa, K-ATPaseα2サブユニット遺伝子欠損マウスにつき、体重の増加を数カ月の間測定し、ヘテロマウスと野生型との違いを統計的に解析した。オスマウスでは、生後6-12ヶ月の間の体重増加がヘテロマウスで大きかったが野生型との差はわずかで有意差が見られなかった。これに対しメスマウスでは、生後6-12ヶ月の間の体重増加がヘテロマウスで有意に野生型より大きかった。 (2)Na, K-ATPaseα2サブユニット遺伝子欠損ヘテロマウスと野生型のホームケージでの運動量には、全体としては変化がなかった。ヘテロマウスの昼間の運動量がやや多い傾向にあったが、有意差はなかった。 (3)同遺伝子欠損ヌルマウス、ヘテロマウスと野生型マウスから、胚繊維芽細胞を分離し、インシュリンやデキサメサゾン処理により、脂肪細胞に分化させた。分化細胞の現れる時期や、最終的にどのくらいの細胞が脂肪細胞に分化するかといった点には差が見られなかった。また、インシュリン依存性グルコース取込みを測定したが、差がみられなかった。Rbイオンの取り込み能にも差がなかった。さらに、細胞内のNaイオン濃度を高めるためにmonensinを添加して測定したが、Rbイオン取り込みに差がなかった。 これらの結果から、ヘテロマウスのメスは肥満になることが明確となったが、その原因として、脂肪細胞の分化や機能が変化したためではなく、神経系の異常によって肥満が起きている可能性が高いことが示唆された。今後、摂食量の変化や摂食ペプチドの発現量の変化などを測定し、肥満の機序を明確にする。
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