Wistar系雄性ラットにおいて5%タウロコール酸(TCA)を膵管内に逆行性に注入することにより出血性壊死性膵炎(TCA膵炎)を、50μg/kgのセルレインを腹腔内に4回投与することにより浮腫性膵炎(セルレイン膵炎)を作成した。TCA膵炎ならびにセルレイン膵炎のいずれにおいても、腹水中ならびに血中のmacrophage migration inhibitory factor (MIF)レベルが上昇していた。腹水中のMIFレベルは膵炎誘導1時間後より上昇が認められたが、血中のMIFレベルは、やや遅れて上昇していた。TCA膵炎ラットの肺においてMIF発現が増強しており、特に気管上皮における発現が顕著であった。一方、肝臓、膵臓におけるMIF発現は、コントロールと同様であった。TCA膵炎ラットに対して抗MIF抗体を膵炎誘導の1時間前に腹腔内投与したところ、抗体投与ラット群において有為に生存率が改善していた。抗MIF抗体投与により、肺におけるtumor necrosis factor-α発現が減弱しており、抗MIF抗体による生存率改善の一機序と考えられた。抗MIF抗体投与による生存率改善効果は、別の重症急性膵炎モデルであるコリン欠乏エチオニン添加食誘導膵炎(CDE膵炎)においても認められた。以上の知見より、MIFが急性膵炎、特に重症急性膵炎の肺障害の形成に関与し、MIFを抗体などを用いてブロックすることが、新たな重症急性膵炎治療のターゲットとなりうる可能性が示された。
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