血管壁における炎症性サイトカインや増殖因子の産生増加は動脈硬化を引き起こす主要な要因である。一方、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)け、肝臓におけるコレステロール合成抑制作用だけでなく血管細胞における直接作用によって動脈硬化を抑制することが明らかにされている。本研究では、スタチンの血管への直接効果を分子レベルで明らかにするために、スタチンを培養ウシ大動脈血管内皮細胞(BAEC)およびヒト大動脈血管内皮細胞に添加することによって誘導される遺伝子をDifferential display法によってスクリーニングした。その結果TRAIL(TNFα-Related Apoptosis-Inducing Ligand)がスタチンによって明らかに誘導されることが明らかになった。そこで次にTRAILのポリクロナール抗体を作成し、ヒト組織における発現を検討した。また、TRAILをBAECに添加することによって、TRAILが内皮細胞のアポトーシスおよび細胞内情報伝達系に及ぼす効果を検討した。その結果、(1)TRAILは血管内皮細胞や気管支上皮、腎尿細管に発現すること、(2)TRAILはBAECの培養上清中に分泌されること、(3)TRAILを血管内皮細胞に添加すると、PI-3キナーゼが活性化し、Aktがリン酸化されること、および(4)TRAILは、IL-1βによる炎症反応を抑制する効果があることが明らかになった。以上から、TRAILは腫瘍細胞にアポトーシスを誘導する因子として同定された分泌蛋白であるが、血管内皮細胞に対しては保護作用をもつ因子であることが考えられる。
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