本研究では、私どもの予備実験によって正常気管支上皮細胞で高発現していることが明らかになった糖転移酵素のN-アセチルグルコサミン転移酵素V(GnT-V)に着目して、肺非小細胞癌における発現異常(低下、喪失)を免疫組織化学法で解析し、組織型や分化度、TNM因子、細胞増殖能、患者予後との関係を検討して、GnT-V発現異常の臨床的意義を明らかにした。 臨床的・臨床病理学的情報が揃った肺非小細胞癌手術摘出腫瘍217腫瘍を材料として、GnT-Vに対する特異的な抗体を用いて、免疫組織化学法(streptavidin biotin法)でGnT-Vの発現を解析した。GnT-Vに対する特異抗体は、大阪大学大学院医学研究科生化学・分子生物学の谷口直之教授が開発したものを、本研究の研究分担者の三善が作製、精製して、解析に用いた。 GnT-V高発現は113腫瘍(52%)に、低発現は104腫瘍(48%)に認めた。多変量ロジステック回帰解析の結果、GnT-V低発現は非扁平上皮癌に比べて扁平上皮癌で有意に高頻度に認めた。Ki-67細胞増殖能ラベル率はGnT-V低発現腫瘍において高発現腫瘍に比べて高い傾向にあったが、統計学的に有意ではなかった。pStage Iの肺非小細胞癌全体において、GnT-V低発現腫瘍の患者は高発現腫瘍の患者に比べて術後生存期間が有意に短縮していた。同様にpStage Iの肺非小細胞癌全体において、GnT-V低発現は統計学的に有意で独立した予後不良因子であった。 以上の結果から、GnT-V発現の低下は組織型に関係しており、かつpStage Iの肺非小細胞癌の生存期間の短縮、予後不良に関係することが明らかになった。
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