昨年度までは糖転移酵素GnT-Vの発現を免疫組織化学法で解析し、肺癌および食道癌において臨床的因子・臨床病理学的因子・細胞増殖能マーカーKi-67陽性細胞率との関係を検討してきたが、今年度はGnT-Vの酵素としての触媒機能によってつくられる糖鎖β1-6鎖の発現を、肺癌組織、食道癌組織・食道正常組織を材料として用いて、L4-PHAレクチン染色で解析して、GnT-Vの免疫組織化学染色の結果との関係を検討した。 肺癌組織ではGnT-Vの免疫組織化学染色の結果とほぼ一致してβ1-6鎖の発現を認め、GnT-Vの発現と酵素触媒機能の結果、β1-6鎖がつくられていることが示された。一方、食道癌組織、食道正常組織・前癌病変組織においては、β1-6鎖の発現は、食道癌では解析した49腫瘍全腫瘍で発現を認め、正常食道粘膜の表層部分では発現はなく基底細胞層で発現を認め、必ずしもGnT-Vの発現とは一致しなかった。レクチンプロット解析を行った5例の食道癌組織・食道正常組織のペア組織では、食道年常組織に比して食道癌組織において、β1-6鎖の発現が亢進しており、L4-PHAレクチン染色によるβ1-6鎖発現解析結果と一致していた。 肺癌においてはGnT-Vの発現がβ1-6鎖の形成に関与し、GnT-Vの酵素活性がβ1-6鎖形成メカニズムの主な規定因子と考えられたが・食道癌においてはGnT-Vの発現のみならず、酵素反応の基質の量、GnT-Vと競合する他の糖転移酵素の発現・活性レベル、さらにはGnT-V以外のβ1-6鎖形成に関わる糖転移酵素(最近、GnT-IXという新しい酵素が同定された)の発現・活性などが複雑に関与して、β1-6鎖が形成されているものと考えられた。
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